2025年5月15日に、学術的視点で巡る洞爺湖町空家等実態調査フィールドツアーを実施しました
1. ツアー実施の背景と目的
空家等実態調査は、地域の将来像を描くうえで欠かせない一次情報です。しかし、単に物件をカウントするだけでは“なぜそこに空家が生まれたか”という因果を捉え切れません。そこで本ツアーでは、地形・歴史・産業・法制度という四つのレイヤーを重ね合わせながら、町内三地区(虻田・温泉・洞爺)を俯瞰し、今後の対策立案につながる“地域文脈”を体感していただくことを狙いとしました。
今回は室蘭工業大学の真境名教授と学生13名をお迎えし、町職員と私たちが伴走するかたちで現地をご案内しました。

2. 当日の行程ダイジェスト
2.1 行程表
時刻 | 区分 | 主な訪問地点 | ハイライト |
---|---|---|---|
9:10 | 虻田 | 町役場 → 商工会 → 空家候補物件 | 水道閉栓情報を手掛かりにした外観確認と地域商業の衰退要因を考察 |
9:40 | 虻田 | 入江・高砂貝塚 | 世界遺産である貝塚と景観形成重点区域の関係性を現地で確認 |
9:52 | 虻田 | 道の駅あぷた・漁港 | 有珠山山体崩壊による海岸地形やホタテ養殖など内浦湾の漁業について学習 |
10:05 | 虻田・温泉 | 西展望広場 | 2000年山麓噴火の火口群を眺望し災害リスクと土地利用について考察 |
10:16 | 温泉 | 温泉支所(休憩)→ 温泉街一周 | 観光中心地の空き店舗実態と流通課題を車窓から観察 |
10:28 | 温泉 | 噴火遺構公園 | 熱泥流で破壊された町営住宅を保存する意義を学習 |
10:40 | 洞爺 | サイロ展望台 → 農用地区域 → 財田扇状地 | 火砕流台地とカルデラ壁が生む農業景観と稲作文化、準都市計画区域指定の経緯、景観規制等を説明 |
11:05 | 洞爺 | 浮見堂公園 | 段丘地形の形成経緯や土地の形成経緯を考慮した土地利用の重要性をレクチャー |
11:50 | — | 町役場帰着 | 質疑・意見交換 |
2.2 ルート図
3. 各地区で得られた知見
3.1 虻田地区 ― 漁業・商業の“動”と空家化の“静”
- 産業変動の影響 : 有珠山噴火や産業構造の変化等による撤退で空き店舗が点在。
- 景観形成重点区域 : 貝塚周辺の建物高さ・色彩規制などが良好な街並み維持に寄与。
3.2 温泉地区 ― 恩恵とリスクが同居する観光拠点
- 2000 年噴火遺構で市街地直近の山麓火口群を見学し、災害履歴が空家発生に与える影響を議論。
- 不動産流通ギャップ : 出店希望は多いが空き物件情報が市場に出てこない「マッチング不全」を指摘。
3.3 洞爺地区 ― 火山が育む農と景観
- 火砕流台地の大規模畑作とカルデラ内部の扇状地での稲作という多様な農空間を体感。
- 準都市計画区域+景観形成重点区域により、別荘・商業開発の無秩序化を抑制。
4. おわりに
フィールドツアーは単なる“見学”ではなく、産官学が同じ風景を共有し、同じ問いを胸に刻む「共通言語づくり」のプロセスだと感じています。洞爺湖町は火山がもたらす恵みと脅威、縄文から続く文化的景観、そして過疎高齢化という現代課題がレイヤー状に重なる“学びの重層フィールド”。今回の気づきを次の実態調査、そして政策提案へとつなげ、『火山と暮らすまち』の新しい空家対策モデルを皆さんと共創していきたいと思います。